AGE VERIFICATION
年齢確認
このエピソードには、成人向けの性的表現を含みます。
18歳未満の方は閲覧できません。
あなたは18歳以上ですか?
確認状態は、このブラウザを閉じるまで保持されます。EPISODE 35ガラスの靴は似合わない
NOW LOADING...

金曜日の放課後。
週末を前に、心踊る夕方。
僕は、いつもの帰り道を歩いていた。

――差し入れは喜んでもらえたかな?
静音さんも、律さんも。
ゆっくり過ごしてくれてるといいな。
あえて、娯楽品は用意しなかった。
ちょっと退屈なくらいが、
きっと、ちょうどいい。

ふたりは今頃――
考えると、
つい顔が綻んでしまう。
人の役に立つって、気分がいいなあ。
~♪
さて、今夜はどうしようかな。
『 へえ――鼻歌なんて。
随分ご機嫌ですね? 』

――!
遥ちゃん!?
気配を消すのが上手な彼女が、
背後でめらめらと怒気を滲ませていた。
『 お父さんは帰ってこない。
静音ちゃんは学校に来ない。
〝彼〟まで姿を消して、
あなたは連絡を返さない 』
物を言わせぬ迫力で、
ずんずんと詰め寄ってくる。

『 いやあ――僕は、
『 知らない?
そんなわけないでしょ。
私に嘘が通用するとでも?
無理やり吐かせてもいいんですよ 』
『 あ……あははは 』
こういう時の遥ちゃんは、
本当に何をするかわからない。
それに――
ここで、下手に騒ぎ立てられるのはまずい。
ああ、ごめんなさい、みんな――

***
なんというか――
手持ち無沙汰だった。
この部屋には、テレビもない。
暇を潰せるものといえば、
差し入れの雑誌くらい。
村崎さんとの、ふたりきりの時間。
嬉しいけれど、
どうしても意識してしまう。
彼女を困らせないように、
なんとか気を紛らわせないと。

***
一方その頃、
静音はウサギになっていた。
創の差し入れたルームウェア。
肌触りがもこもこで、とっても可愛いそれは、
短めのショートパンツに、
フードからぷらんと垂れたウサ耳。
白い、まんまる尻尾までフル装備。
『 ちょっ、ええ、これ…… 』
さすがに恥ずかしいし、色々とまずい。
こんな姿、見られたら――
〝食べられちゃうかも?〟
『 は……?
何を考えてるの、私―― 』
バカみたい。
ぴょんぴょん跳ねてみたりして。
着ておいてなんだけど。
そして、盛大に足を滑らせた。
『 村崎さん――!? 』
彼の慌てた足音が近づく。
大丈夫!
そう言おうとしたけれど、
焦りすぎて声が出ない。
そして無情にも、ドアが開け放たれた。

***
そこには、信じられない光景――
村崎さんが、ウサギさんになっていた。
『 あ、あのね、違うの……
じゃなくて、大丈夫!
気にしないで 』
その愛らしい姿に、
身体が一気に熱くなる。
無意識に鼻の下を触った。
――鼻血は出ていない。
『 ごめん、すぐ着替えるから! 』
彼女は慌てて立ち上がり、
ドアをばたーんと閉めた。
――。
また着てほしい。
ぜひ、いつか、きっと。
ふわふわした頭のまま、
俺はリビングへ戻った。

昨夜は、ばたばたしていて、
それどころじゃなかったけど。
今夜も、ふたりきり。
あのホテルでの時間を、
つい思い出してしまう。
色んな人に迷惑をかけている。
こんなことばかり、考えてちゃだめだ。
わかってる。
わかってる――
……滝にでも打たれるべきだな。
もう一回、シャワーでも……
馬鹿みたいなことを考えている間に、
彼女が戻ってきて、
キッチンでコーヒーを淹れ始めた。
『 どうぞ 』
――ありがとう。
置かれたマグカップから、
香ばしい香りが立ちのぼる。
村崎さんは、
斜め向かいのソファに腰を下ろした。

黒いフード付きの半袖シャツに、ショートパンツ。
すらっと伸びた白い脚が眩しい。
自前の服がない時、
彼女はいつもこういう格好を選ぶ。
意外とボーイッシュというか、
シンプルで、動きやすい服が好きなのかも。
そして、しばしの沈黙。
お互い、お喋りな方じゃないから、
どちらかが切り出すまで、
少しだけ緊張感がある。
〝気を遣う〟状況なら、
なおさらだった。
いつまで続くかわからない逃避行。
この時間は貴重だと思う。
俺は意を決して、口を開いた。
――辛くない?
『 ううん。苦い 』
そうじゃなくて。
こういう返しが、
わざとなのか天然なのか。
いまだによく分からない。

『 あのね、さっきのは―― 』
弁明したいらしい。
だけど、言葉が続かない。
……いや、違う。ここは。
『 可愛かった。すごく 』
『 ――もう 』
ちょっとずれたタイミング。
俺も、まだまだだ。
彼女は真剣な顔で話を戻した。
『 私――ずっと考えてた。
いつか、きっとこうなるって。
黒服さんたちは守ってくれるけど、
見張られてるってことでもあるから 』
彼女の身になれば、
そう思うのも無理はない。
大切にされている。
その反面の、不自由さ。

『 兄さんのことは怖かったけど、
あの人が出ていって、気づいたの。
もう、私しかいないんだって 』
彼女は、
珍しく少し感情的だった。
『 でも、家に縛られるのは嫌なの。
私、全然いい子じゃない。
自分勝手なのはわかってる 』
ひとつ息をついて、
言葉を続ける。
『 誰かに頼らなくても生きていけるように、
ずっと勉強も頑張った。
家の人たちは優しいけど、
そういう生き方は、私には合わない 』
ここまで、自分のことを話す村崎さんは、
初めてだった。
確かに、彼女からは、
ご令嬢とか、お嬢様とか――
そういう感じはしない。
家を離れた今だからこそ、
ようやくこうして、
ちゃんと、話せるようになったのかもしれない。

村崎さんの表情が、一段と凛とする。
こちらをまっすぐ見つめる瞳には、
強い意志が宿っていた。
『 わかってたの……
だから、我慢すべきだったのに。
気持ちを抑えきれなくて。
君を巻き込んじゃった 』
――それは……
そう言いかけた俺を制して、
彼女は小さく首を振る。
『 違うの。
今まで私、色んなことから逃げてた。
知らないふりをしてた。
だけど、これからはちゃんと向き合うよ 』
毅然とした表情のまま、
彼女は少しだけ、こちらへ顔を近づけた。

『 ……君は、痛いのが好き?
怖いって思ったりしないの? 』
――痛いのは嫌だし、怖いよ。
『 それでも、いつも守ってくれた。
私も、そうしたい 』
彼女は立ち上がると、
俺の肩を掴んで、そのままソファへ押し倒した。

――村崎さん!?
『 お願い……我慢しないで。
私にもちゃんとできるって、証明させて 』
見つめ合ったまま、
彼女の顔がゆっくりと近づく。
瑞々しい果実のような、
甘やかな香りに包まれる。
もう――何も言うことはない。
彼女の細い腰を抱き寄せ、
瞳を閉じて、唇を重ねた。

唇を擦り合わせながら、時折啄むように弄ぶ。
背中に回した手に、
彼女の身体が小さく震えて応えた。
頬を掠める吐息が、
少しずつ熱を帯びていく。
――彼女も、
同じ気持ちでいてくれている。
今は、心からそう思えた。
その小さな唇を吸い、含んで味わう。
彼女は負けじと、柔らかな舌を侵入させてきた。

互いの舌を絡ませ、唾液を交換する。
夢中になっている間に、
シャツを捲って、肌を露わにしていく。
そして掌は遠慮もなく、
彼女の柔らかい、
小ぶりな臀部の感触を味わっていた。
もう、迷わない。
このまま、君と――

彼女のシャツを捲り上げ、
露わになった胸のふくらみを、
下着の上から愛撫する。
彼女の表情に、恐れは感じられなかった。
あるのは、隠しきれない恥じらいだけ。
その顔を見ていると、
つい悪戯心が湧いてくる。
――村崎さんの身体、
柔らかくて、綺麗だよ。
彼女はさらに顔を紅潮させて、
ふるふると顔を振った。
その様子が、さらに嗜虐心を刺激する。
――下着を外してもいい?
身体を小さく震わせながら、
それでも彼女は、ためらいがちに頷いた。
自分から踏み込んできたとはいえ、
恥ずかしいに決まっている。
それをいいことにしている俺も、
大概ひどい奴だった。
彼女の下着に手を掛けた、
その時。
外に、人の気配を感じた。
男女の話し声。
勢いよく、
玄関の開く音。
けたたましい足音が近づき――
次の瞬間。

『 静音ちゃん、いるの――!? 』
勢いよくドアを開け放ち、
飛び込んできたのは、
血相を変えた遥ちゃんだった。

『 は、遥!?
どうして……! 』
シャツの裾を、腿まで引っ張りながら、
ソファの上でひっくり返る、村崎さん。
何食わぬ顔で、雑誌を開く俺。
もう、誰が来たとかどうでもいい。
――またかよ――!
ぱあっと、表情を輝かせた遥ちゃんは、
そのまま村崎さんへ駆け寄り、
勢いよく抱きしめた。

『 良かった、元気そうで――!
ずっと心配してたんですから……! 』
まるで愛犬にするように、
わしゃわしゃと髪を撫でる。
村崎さんは、
何とも言えない表情を浮かべながら、
されるがままに頷いていた。
俺は雑誌をテーブルに置き、
その後ろに控える彼へ視線を送る。

『 あはは……感動の再会……
いいですね――こういうの…… 』
創は、青ざめた顔を引き攣らせながら、
抱えたピザの箱を、
くい、くいと持ち上げてみせた。
――パーティのはじまりだ。

創は手際よく〝会場〟を整え、
俺たちは、香ばしいピザを囲んで腰掛けた。
村崎さんは、遥ちゃんに独占されていた。
そういえば、幼馴染なんだっけ。
指を絡ませて、
無邪気に話す遥ちゃんの表情は、
俺の知る彼女とは別人のように
柔らかく、にこやかだ。
対する村崎さんも、素直に応じているけれど、
顔にはずっと困惑が浮かんでいる。
俺は隣に座った創に問いかける。
線の細い少年は、
申し訳なさそうに話し始めた。
『 いやぁ……すみません。
彼女のことを、計算に入れてませんでした。
とにかく勘が良くて、
隠し事が難しいんです 』
自分にとって大事なことには全力。
そんな感じなのは、よくわかる。
手段を選ばない強かさも、
身をもって経験した。
『 秘密を漏らす心配は、ないと思います。
そういうことの重大さも、
よく知っている人だから 』
まあ、その点では、
信じてもいいのかもしれない。
でも、彼女には彼女の思惑がある。
不安要素には変わりなかった。
しばしの歓談のあと、
遥ちゃんの矛先はこちらに向いた。

『 東雲、くん?
あなた、この子におかしなことを
していないでしょうね? 』
少し言い淀んだ、
ぎこちない、他人行儀な口調。
それも当然。
俺と遥ちゃんのは、
この場でじゃない。
本音はもっと熾烈で、
締め上げてでも、
今の状況を問い詰めたいのだろう。
でも、村崎さんの前ではそうもいかない。
なんやかんやと注文を付ける彼女の隣で、
束の間、解放された村崎さんは、
小動物のような愛らしい仕草で、
黙々とピザを食べていた。
『 そもそも、毎食、
店屋物っていうのもよくないですし!
これからは、
私もここに泊まりがけで―― 』
その恐ろしい申し出に、
すかさず創が反論する。

『 遥ちゃん、それはだめだよ。
――ご家族にバレちゃうでしょ? 』
家族、という言葉に、
女子ふたりの表情が少し硬くなる。
ぽかんとしている俺に、
創はそっと耳打ちした。
『 えーっと、
実は、遥ちゃんのお父さんは、
例の黒服の偉い人なんです 』
!?
俺は思わず、
遥ちゃんを目で牽制する。
『 いや、私は――!
わかりました、帰ります、帰りますから!
あと、今のところは、大丈夫です!
お父さん、そんなに鋭くないから―― 』
さりげなく酷い。
――それでも、
リスクは計り知れない。
村崎さんが困惑するのも、
無理はなかった。
それからも、わーわーと騒ぐ
遥ちゃんのペースに巻き込まれながら、
俺たちの夜は更けていった。

***
村崎別邸。
椎は私室で、
探偵と連絡を取っていた。
『 そうです。
情報源の記者が、以前その子に会っていて――
現在は、十五歳前後だと思います 』
亡くなった佐伯ハルの忘れ形見。
そして、
貸金庫を受け継ぐ相続人。
そのひとり娘を探し出すことが、
現在の最優先事項だ。

『 その情報は大きいです。
年齢と性別まで分かれば、かなり絞れる。
明日からはハルさんの足取りではなく、
佐伯家の親族筋を当たってみましょう 』
『 ……十分、気を付けてください。
そちらも、マークされているかもしれない 』
『 ええ、わかっています。
この年齢で消されたくはないですし 』
乾いた笑い声。
『 ……実は、先日の調査で、
ある程度目星はついていまして。
確証が持てたら、すぐお伝えします 』
――。
しばしの沈黙。
『 椎さん? 』

『 すみません。
私も別件で動く予定で。
もし、長期間連絡が途切れたら―― 』
その時、
探偵のPCに通知が入った。
『 おっと――これは? 』
『 万が一です。
その時は、そちらへ連絡をお願いします 』
長く、淀んだ村崎家の闇。
幾つもの世代に跨がる欺瞞が、
ようやく綻び始めている。
そう――きっと、もうすぐ。
この夜も、終わる。
椎は、疲れ果てた身体をベッドに投げ出し、
そのまま深い眠りについた。
